恋は思案の外



――寝ているとき、ふたりの間には何も無かった。



分かってる。理解できる。わたしだってもういい大人だもん。


そこまで馬鹿じゃないし、何かされても目が覚めないなんて有り得ない。




だけどわたしは。


この男の家で無防備にも爆睡してしまった。そのことが。












「お・は・よ・う。」

「ぎいやあああああああ!!!」



ふうっと色気たっぷりの吐息を後ろから耳に吹きかけられて、まるで女とは思えない本気の悲鳴が出た。



「……!」

「んー」



がばりと勢い良く後ろを振り返り、口をぱくぱくと動かしながら声にならない声を出していたそこで。


見事なまでに蛸唇にしてキスしようとしてくるこいつ…!



「やめんかこの変態っ!」

「えー、だってちゅー。 して欲しそうに口ぱくぱくしてたからぁ」



腕から逃れようと必死でもがき嘆き続けるわたしの唇に、男の長くて節張った指が触れる。



男のモノだと嫌でも認識するその感触に、触れた場所から全身にまるで電気が走ったような痺れを感じた。


そして嫌ほど紅潮する自身の頬と、少しだけ寝相で乱れたお互いの服を認めてしまえば、虚勢を張るわたしなんてきっと無意味で。




恥ずかしさとか照れだとか。

バレないようにって思う度、わたしのすべてから動揺が駄々漏れだ。



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