恋は思案の外
近付いてくるカウンター席。同時に視界に映り込んでくる疎らな客の背中。
背を向ける客の数は三人。スーツを着た男性がひとり、作業着姿のおじさんがひとり。
―――……それと、
「それじゃ、決まり次第お声掛け下さいね。お水はあちらにありますんで、お好きなだけどうぞー」
「うわ、は、はい!ありがとうございます……」
うわ!まただよ!また声が上擦ってしまった!
余りの恥ずかしさに暫く俯いたまま立ち上がれない。お姉さんに促されるまま席に着いてしまったため、隣には厭な予感の元凶が座っているのに。
だぼっとした黒いスウェット。
ぼっさぼさの髪の毛。
よれよれで今にもベローンと剥がれそうな、健康サンダル。
「あれ?」
嗚呼、いま、この瞬間を以て。
わたしの予感は確信へと塗り替えられたのだった。
「お姉さんじゃん。なになに、ラーメン食べにきたの?ここ美味いよなー」
「……今すぐにでも帰りたくなったけどね」
「なんでー!何にも食ってねぇのに!」
「(アンタのせいだっつーの!)」
心の中でこそ叫号を上げるものの、実際問題ここには他のお客さんだって居るのだから。
口を尖らせ不満だらけの顔だったのは仕方ないけれど、ギロリと睨め付けるにとどめ外方を向くに至る。