恋は思案の外
そんなわたしの様子をまじまじと見つめたヒト科のそいつ。
なんだか厭な予感を察知。自ずとわたしの眉間には複数の皺が刻まれる。
「あー、わかったわかった。ふぅん」
上機嫌にもそう言葉をおとすに留め、再度ラーメンに向き直ったそいつ。
え、ちょっと待ってよ。自己完結?こんな状態で放置されるコッチの身にもなれっての。
「なによ」
地味に気になってお水、取りに行けないじゃないか。
そんな中でも悠々とラーメンを啜るヒト科に半ば諦めが勝る。ていうか、お腹が空き過ぎて見ていられない。
店内に溢れる美味しそうなラーメンの匂い。
香ばしい胡椒のそれも相俟ってわたしの鼻腔を擽るし、ヒト科は一丁前にもシカトを決め込んでいるから仕方が無い。
ガタン!席を立ったわたしは冷水機のあるほうへと身体を反転させる。
少し椅子の音が大きかったかもしれない。けれど、日常に存在するそんな音は直ぐに店内の喧騒に溶け込んで消えた。
「いろは」
喧騒に呑まれて、いた筈なのに。
数えるほどしかわたしのことを名前で呼ばないコイツにそう呼ばれると、嫌でも耳朶がその声音を拾い上げてしまって。
バカみたいに踏み止まったわたしは、そのあと何事も無かったかのように再度足を繰り出そうとする。
馬鹿だな。立ち止まったことで「聞こえた」と言ったような、ものなのに。