恋は思案の外
背後から手を掴まれて、間抜けにも「あ」なんて声を洩らす。
抗うことのしなかったわたしは促されるままに振り返る羽目に。
移ろう視界は限りなくスローに思えた。
段々と視線が捉え始めるヒト科の表情。至極愉快そうに歪められた口許。
「………だから、なんだっつーの」
ばくばくと大仰なほど鼓動する心臓。まるで、この男にも聞こえてしまいそうだ。
しかしながら、ばれたくない。だからわたしは日頃と同じく強気な姿勢でそう返す。
でも、のちに落とされた予想外すぎるヒトコトに彩る世界が粉砕される。
「俺の分も水もってきてー」
「は?」
「だから、水」
「………」
「水」
コイツハナニヲ、イッテイル?
目をしばたかせて一呼吸。ちょっと待て、落ち着けわたし。TPOを考えろ。
尚も掴まれた腕から伝わる熱。
先ほどまでは信じ難いほど甘美な空気を醸し出していた元凶は、紛れも無くこの男じゃん。
それなのに「水」だってよちょっと、聞いてよ。
この間こいつんちで組み敷かれたときを思い出すよ。
ジャ○プ見付けて放置された恥ずかしさにも匹敵するくらいだよ!
「ああ、はいはい。水ね」
身構えた数分前のわたしに一言教えてあげたい。この摩訶不思議な結末を。
ていうか本当に紛らわしいんだけど。
無意味にちょっと真面目な顔するんじゃないよ!いつも通りへらへら笑っていればいいじゃん!(失礼)