恋は思案の外
「いらっしゃいませ」
土曜日の、今日。
休日なこともあって朝からお客様で賑わう、町のちいさなスーパー。
その為今日は開店から閉店までの通しでシフトを組んでいる(労働基準法に引っかからないようにガッツリ休憩時間はいただきます)。
わたしの仕事は、基本レジ打ち。
一日の殆どをこのレジと共に過ごすことになる。
使い古されたクリーム色の本体。そこに在る無数のボタン。バーコードを読み取るスキャナー。
「(レジちゃん、今日もよろしくね……。)」
ぼうっとレジを眺めながら心のなかでぽつりと呟くと、ただのレジにも凄く愛着が湧くのだ。
……きっとこの1番レジカウンターには梅雨の湿気も伴って、どんより哀愁が漂っていることだろう。
「48番の煙草、2箱ちょうだい。」
そう声を掛けられたのは開店してすぐのことだった。
見つめていたレジ子(仮)からレジカウンター越しにちろりと視線を寄越すと、スーツを着た男のひとがそこには立っていて。
「あ、はいっ。」
慌ててレジ前の煙草が陳列されているショーケースから、言われた通り48番の煙草を2箱取り出して「こちらでよろしいですか」と問うた。
「んー」
お客様は目の前に差し出されたそのブラウン色のパッケージ2つを、切れ長な双眸で確認すると。
「うん。大丈夫。」
にこり。
しわくちゃ笑顔でそう答えた。