恋は思案の外



「900円になります」

「はい」

「1000円お預かりします」



朝からビシっとキメた、この田舎町には浮き立つ不思議なお客様。


その人がひらりと差し出した1000円を受け取りつつ、変に思われない程度に観察してみた。




ワックスできちんと整えられている、オールバックにされた黒髪。


光沢のある、グレーのネクタイ。


ストライプの入ったシャツに、ブラックのジレ。



「100円のお返しです」



シンプルなブラックスーツはすらりとした長身のその男のひとによく似合っていて。


うん。きっと素敵な――







「あれ? 本気で気付いてないの?」

「………は?」






今し方、お釣りを返すときにぎゅうと手を握られたこのシーンに。



…………嗚呼、何だか見覚えが有り過ぎて。





「俺だよ俺! 俺!俺!」

「あぁ、今更感満載なオレオレ詐欺ですか」

「違うっての!俺だって!」

「(……あたま、いたい…。)」





きっと素敵な男性なんだろうな。


……なんて思ったわたしの純粋で綺麗な気持ちを返せこの変態ヒト科!



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