恋は思案の外
「ていうかお姉さんそんな詐欺に絶対引っかからないっしょ!」
「残念ですがお金は無いです。さようなら。」
がしりと掴まれたままの手を何とか引き抜こうと、冷静顔で、だけど必死にブンブン振り回すけどこれがまた、なかなか抜けない。
それどころかこの状況、周りから見たら激しい握手してる変な店員と客じゃね!!?
だってホラ!
その証拠にこのヒト科の後ろに並んでたお客さんが、かなりドン引きして顔を引き攣らせながら別のレジカウンターに…!
「お金振り込んでなんて言ってないよ!しかもこれ電話じゃないから! ほら、フェイス・トゥ・フェイス!!」
「気持ち悪い。さようなら。」
「ちょ、オイイイ!だから!俺! 浬お兄さんだってば、お姉さん!」
「うるさい!邪魔!いい加減手を離―― 「鳳(おおとり)さん、」
いつもみたいにレジでギャンギャンと騒いでいたら、突然肩をポンっと叩かれたので急いで振り向くと、そこには今にも泣き出してしまいそうな笑顔の店長が。
「鳳さん…、僕がレジ代わるから……」
品出しに回って、と。
笑っているのに哀しそうな顔をして懇願する店長の背中に、この店の更に上層部の顔触れや店長の家族が見えた気がした。
前回の台風の時、ニヤニヤしながらわたしを更衣室兼荷物置きの事務室に向かわせたのはどこのどいつだ!
……とかそんなこと言えないので、「すみません」と謝りながらレジカウンターから一旦退却。品出しに向かった。