恋は思案の外
そこは蹴っちゃいけません






「よっこいしょ……ッと」

「いろはちゃん、その掛け声やめたら?あたしが言うのもなんだけど……それ、オバサン臭いわよ」

「いやあ!あはは……」



可笑しそうに破顔して去っていくパートで先輩のおばちゃんの背を、引き攣った笑みで見送った。

しょうがないじゃないか、口癖なんだから。思わずムスリと顔を顰めて視線をおとす先に幾つも置かれているダンボール。

黒の油性マジックで「休憩所1」やら「休憩所2」と記されたそれは、今日この街で催されるビッグイベントに使われるペットボトル飲料だったりする。





スーパーの真ん前の車道。平素であれば「○○町へようこそ!」と陳腐なゴシック調の文字が躍るその場所は、今日だけは「○○町マラソン大会」という文句に塗り替えられていた。




「鳳さーん!これ待機場所に持って行って参加者さんたちに配ってきてくれる?」

「はーい」






休む暇なく与えられる業務に奔走していると、ちょうど姿を現した店長にズッシリとしたダンボールを渡される。

この小さな街で賑わうスーパーというだけあって、このイベントの飲料調達を全面的にバックアップしているらしく。

今日ばかりはお店に「マラソン大会のため臨時休業」と紙を貼り付け、従業員総出で飲料を抱え会場内を走り回っているのだ。



重量感たっぷりのダンボールばかりを運んでいるせいか、既に腕の筋肉が悲鳴を上げ始めていたのもまた事実で。

明日の朝が恐ろしい。ハタチを越えてから、心なしか筋肉痛が遅れて顕れる気がするから。




まだ見ぬ明日に対する不安を増殖させていると、「待機室」と記された陳腐な白いテントが視界に映り始める。店長に頼まれた目的地だ。







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