恋は思案の外
「失礼しまーす、飲料お持ちしました」
「あ、ありがとうございまーす!」
首に「大会スタッフ」と記されたプレートを掛けている中年の女性を見付けて向かうと、直ぐにわたしの姿に気付いた彼女が腕にあるダンボールを引き受けてくれて。
嗚呼、助かった。重い箱が腕から消えた瞬間のこの爽快感は半端じゃないぞ。
折角だから今日参加する人たちの中で知っている人は居ないかな、なんて。そんなことを思いながらテント内を見渡したのはほんの出来心からだった。
そりゃもう、ウチのスーパーはこの街で中心的な役割を担っている訳だし。この中にお客さんとして見た事のある人たちが居ることは予測の範囲内だったけれど。
勿論居た。常連さんなんかは、わたしの姿を認めて笑顔で手を振ってくれたりして。
いや、それは良いのだけれど。うん、問題は違うところに―――
「おねーさーん!」
何時ものスウェットではさすがに暑いらしく、その上半身はよれよれの白いTシャツに包まれていて。
下は黒のハーフパンツ。視線をぐいぐい引き寄せるすね毛は見なかったことにする。
普段であればボロボロの健康サンダルを履いているその足は、真新しいランニングシューズにおさまっていて。
「………お疲れ様です。わたし、戻りますね」
「えっと、お知り合いじゃ……?」
「おねーさーん!ちょっと!シカトしないでくれよー、浬お兄さん悲しいじゃねぇかよ」
「いいんです!い・い・ん・で・す!何も見なかったことにしてください。それじゃ、」
「はいタンマ」
わたしの行動に目を丸くした受付スタッフの女性にニッコリと笑みを向けてこの場を立ち去ろうと踵を返し掛けるものの、ガッチリと腕を掴まれたことでそれは不発に終わった。