恋は思案の外






「わかっ、わかった、わかったから!だから止まれヒト科!」

「お姉さんが止まらねぇから俺も走ってんじゃん」

「あんたが追ってくるからだろうが!」



傍目に見ても分かるほど息の上がり始めたわたしは、勢いよく振り返るなり足を止めてヒト科を睨め上げる。

忙しなく上下する肩は言わずもがな故意ではなく。中々整わない息を抑え込もうと躍起にはなるけれど、益々自らの体力の無さを痛感するだけだった。脇腹痛い。



そんなわたしに反して、息ひとつ乱していないヒト科はニヤリと口角を持ち上げる。








「なんかそういうの、そそるんだよな」

「………は、?」





そして此方の耳元に唇を寄せる。知らずの内にテント内の角へと向かってしまっていたらしいわたしに最早逃げ場は無い。

思わず眉根を寄せて威嚇するものの、それすらも悪戯めいた笑みで一蹴した男はと言うと。









「―――……ヤった後みてぇじゃん。あ、そうだ、もし俺が一位取れたらお姉さん一晩相手し「言語道断!!!」




――――チーーーーン!









瞬く間に眼下に沈むヒト科を見て尚も眉根を寄せるわたしは、溜め息をおとしつつ腕を組む。

やつが両手で押さえる場所は言わずもがな股間で。蹴った瞬間のあの感覚は猛スピードで抹消した。

自業自得だっつーの!







「(………最悪だっての……)」








ドコドコと忙しなく鼓動する心臓の存在がばれなくて良かった。

口では「馬鹿じゃないの?」とか言っているわたしの心境だって、それに見合うほど辛辣なものなのに。相手は胸きゅんポイント皆無のあの男じゃん。



それなのに、会うたびに話すたびに鼓動スピードが上がっていく気がするのは、なんで。









    そこは蹴っちゃいけません

  ( あれは正当防衛だったんですー )

        *saki





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