恋は思案の外
決められたルールは守りましょう
――この世の中には、守らなきゃいけないルールってもんがある。
「はい、鳳さん。このプレート胸元辺りに付けといてね」
それは、どんなに小さな社会の枠組みの中でさえ存在して。
【わたしの半径1m以内に近付くべからず(ヒト科限定)。】
これも、れっきとしたルールだ。
まあそのルールはたった今決まったことなんだけど。わたしの中で。
「そろそろ最初の集団が来る頃だと思うから、……鳳さん?」
ルールを守れない奴にはそれなりの制裁ってやつを――「鳳さーん?」
「ハッ! 何ですか!」
「あ、いや、このプレートを付けて欲しくて……何かそわそわしてない?」
「そ、そわそわなんか…っ!」
いつ来るやもしれない恐怖に意識を明後日の方向へと飛ばしかけていたわたしに、“スタッフ”と書かれた安全ピン付きの小さなプレートが店長から渡されたのは、マラソン大会が始まって暫く経った頃だった。
「そわそわじゃなくて悪寒!そう、悪寒で震えてるんですコレは!」
「あ、そ、そう?」
「アハハ、おかしいな!風邪でも引いたかな!アハハ!」
「へ、へぇ…。大丈夫……?」
顔を引き攣らせてわたしと距離を取る店長を軽く睨みながら、わたしは左の胸の辺りに今し方渡されたプレートを付けた。