恋は思案の外
狼男を撃退せよ
わたしは基本、人混みが嫌いだ。
春のお花見も、夏のお祭りも、秋のピクニックも、冬のクリスマスも。
友人に誘われたら行くことはあったけれども、気が向いたら行く程度で。きっと人生で数回しか行ったことがない。
自ら率先して人が大勢いるような場所に参加するなんて、そんなのあり得ない話だ。
「それではこちらでチケットを拝見いたします!」
「あっ、そこ押さないでくださーい!」
「慌てないで、ゆっくりと前にお進みください!」
劇場のスタッフが声を荒らげる。
上映時間の10分前に開場のアナウンスが流れて、ものの数秒で此処は戦場と化していた。
此処にいるのは子どもが過半数、それに付き合っている大人がちらほら。
子どもなんて無邪気なもので、列だとか迷惑だとか、そんなの気にしないで走り回る。そんな子どもを宥める親には既に疲れの色が見え隠れしていた。
「きゃー!」
「あ、コラ!待ちなさい! ごめんなさいっ」
「わっ、 い、いえ……」
わたしが子どものときだってきっとこうしていろんなひとに迷惑をかけてきたんだろうと思うと、申し訳なさそうに眉を垂らして謝るひとに文句なんて言えるはずがない。
でも、子どもを放って置く親がいるのも現実。
「あー!レンジャーだー!」
「レンジャーかっこいいー!」
「いてっ、」
駆ける子どもが自身の背中にぶつかってくるのは、もう何度目なのだろう。