恋は思案の外
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「お姉さんどっちに座る?」
「……じゃあ左側」
わたしのあの提案に二つ返事で了解したヒト科のそれからの行動は早かった。
喫茶店を出るや否や直ぐ様映画チケットを購入して、ジュースやポップコーンも買って、シアターまでわたしを引っ張ったのだ。
口を挟む間もなくあれよあれよという間に準備は整ってしまい、あとは上映スタートを待つのみ。この行動力にはほとほと呆れる。
「ねぇねぇ、」
「あ?」
「これ、どんな映画なの?」
「知らね」
その場で購入した小さな映画チケットは、前売りのものとは違い、絵も何もない字だけの寂しいものだった。
それにデカデカと書かれている文字――《人狼の牙》というタイトル。どんな内容なのかこれっぽっちも想像できずに、コレを選んだヒト科に尋ねるが奴は知らないとのたまった。
「はああああああ!!?」
「お姉さん、しーっ!」
「は?なに?適当に選んだわけ?」
「そりゃあ、俺別に映画詳しくねぇし」
得意気に答えてんじゃねぇよ!とまた大声を出しそうになったけれど、既の所で飲み込んだ。と、同時にシアター内の照明が暗くなる。そろそろ始まるようだ。
まあいいや。ヒト科の奢りだし。あ、いやでも借りを作るのは嫌だし後でお金返そう。
そんなことを考えながら、大きなスクリーンに映し出された《映画を泥棒しちゃいけません》の某CMをぼんやりと眺めていた。