恋は思案の外
* * *
――まあ、そんな経緯からわたしの貴重な休みはこの未確認生命体に献上する羽目になったのだ。
「さーて、準備できたぞー」
「(……帰りたい)」
「いろは何ボサッとしてんだよ?そこにある木刀取ってくれ、ほれ」
だって何だかんだ言って先週の休みもコイツと映画観に行ったのに!
地面にポテッと落っこちていた木刀を素早く手にしたわたしは、それを直ぐ様ヒト科目掛けて振りかざす。
細かいことは考えていなかった。
だって暑いし。疲れるし。
ゆらゆらと陽炎が網膜を焼く中、わたしの視界は驚くほどのスピードで移ろっていく。
しかしながら、その刹那のこと。
「ッぶねぇ!」
「っ、」
「いきなり立ち上がるからだろうが!……大丈夫か?」
振りかざしたと思っていた木刀は、わたし自身が手にした瞬間真後ろに傾いていたらしい。
そんなわたしの身体は立ち眩みのせいで酷く不安定だったらしい。
全てが曖昧な視界の中で倒れる瞬間に感じたのは、強い抱擁感。
「………だって」
アンタが木刀取ってって言ったんじゃん。
そんな言い訳だって最後まで音になり切らず口を噤む。
本当は解っていた。
そうやって強く窘めてくれるのはわたしを心配してくれるからこそなんだって。
だから、反論できずに視線を泳がせたわたしは沈黙を貫いた。
「いろは」
だから甘美な声音で名を紡がれた瞬間、わたしの脳は猛スピードで覚醒した。