恋は思案の外
脳内に存在する小さな信号が黄色の光を点滅させる。
その間隔は確実に狭まってきていて、そろそろ赤に移ろいそう。
その瞬間にもわたしの脳裏に浮上したのは、あの瞬間。
先週のこの時間。
映画を観ていて、それでこのヒト科が――!
「や、めろー!!!」
「ぎゃフッ、!?」
首筋にあのときの感覚がまざまざと甦る。
そ、そ、そうだった!
わたしコイツにあんなことされたのに!
こうしてまた二人きりになっているなんて、本ッ当に学習能力が無いと言うか……!
立ち眩みから倒れ込む瞬間に助けてくれたことには感謝する。
けれど、それでも、だからと言って。
イコールで警戒心を解くことには繋がらないんだから!
そう思って腕の拘束から逃れようと暴れるけれど、なかなか叶わなくてちょっと焦る。
「……なに逃げようとしてんの?」
訂正!ちょっと、じゃなくてかなり焦る!
ハンターさながらに瞳を妖しげな色に彩ったヤツは、口許に愉しげな笑みを浮かべてわたしを見下ろす。
そんなヤツを腕の中で振り仰ぐわたし。
ドッドッドッ、忙しなく鼓動する心臓は働き過ぎて悲鳴を上げている。
絶対に決められたぶん以上の労働をしている。
こんなに酷使するなら時給を上げてくれって、切なる願いを訴えている。
「(は、な、せー!)」
近すぎる距離のせいで叫ぶこともできないわたしは、口ぱくで精一杯そう象りながら逃げようと躍起になった。
ただでさえ暑かったのに、今はその比じゃないくらい。
浮かんでは落ちていく水滴を拭う手立てもなく、先週の二の舞になるまいと必死にもがくばかり。