恋は思案の外





「ヤダ。」

「えー!なんでだよ!」



その顔が癪に障って、わたしは間髪入れず溜息と共に吐き出した。

わたしがそう答えることは想像の域だったのか、ヒト科は大して驚きも落ち込みもせず軽い口調で返してくる。



「わたしにはハヤテ号がいるのでごめんなさい」

「なんだそれ。告白された時の断り文句みたいだな」

「わたしは今からハヤテ号と一緒に家に帰って、ビール飲んでスルメ食べて癒やしの時間を過ごすんだ!」

「家に帰って酒飲むなら今飲んだって変わんねーだろ!いいじゃねぇか!付き合え!!」



ひとりよりふたりだ!――ヒト科はそう言ってわたしにびしっとピースサインを向けてきた。


ホントにコイツは…!

アンタと一緒に飲みたくないっていう乙女心、いろは心を少しは察せ!!


向けられているその指をへし折ってやろうと思い、手を伸ばしぐっと力を込めれば、大げさに「痛い痛い!」と嘆くヒト科。若干涙目なのはコイツの演技だということにしておこう。



「いや飲酒運転になるから!捕まるから!ハンドルキーパーに酒飲ますの禁止!!」

「だーいじょうぶだって!俺オマワリさんとお友達だから!」

「意味分かんない!全然大丈夫じゃないしオマワリさんとお友達とか関係ないし!!」

「堅いこと言うなよ!なんならうちに泊まっていいし」



ヒト科のその台詞に、わたしは先程までの勢いをぴたりと止める。



泊まる、といえば。以前も台風のときにコイツの家に――



< 83 / 132 >

この作品をシェア

pagetop