恋は思案の外
次の瞬間わたしの脳裏を掠めたのは、あの日の出来事。
――そうだ、思い出した。
冷蔵庫にはビール。戸棚にはカップ麺しかない、食糧難の家。
ヒト科を不覚にも押し倒してしまったあのハプニング。
反対に引き寄せられた腰。呼ばれた名前。低い声音と、耳朶を刺激する歯の感触。
近付いた、距離。
《お泊まり、危険。》――そうどこかで誰かの声が聞こえた。
「ヤ……、ヤダ!無理!!」
「いいじゃねぇか一杯くらい!付き合い悪ぃぞ!」
わたしの危険信号が点滅している。嗚呼、耳障りなクラクションまで聞こえる気がする。
だからお泊まりだけは阻止せねば!、と全力で拒否するわたしが余程気に喰わないのか、ヒト科はさらに駄々を捏ね始めた。
大の大人がなに子どもみたいに手足バタバタさせてるんだ!気持ち悪い!!
女の子がこれだけ嫌だって言ってるんだからいい加減諦めろよ!!しつこい男は嫌われるんだぞ!!!
「ちょっともう、また浬さんですか」
わたしとヒト科の言い合いが暫く続いたとき、わたしたちの背後からふと疲れた呆れ声が降ってきた。
その声にばっと勢い良く振り向いた先には、上衣、ズボン共に紺色の制服を着た、市民の生活の安全と平穏を守る――
「オマワリさああああん!!!」
そう。市民の味方、警察官サマサマが立っていた。