恋は思案の外
「てめえええ!こんのくそガキッ!なに手錠してくれてんだ!!外せ!!!」
「この手錠の鍵、俺持ってなくて外せないんです。すんませんー」
「くそガキがああああああ!!!!!!」
そんな何か漫才のようなやりとりをぼうっと呆けて見ていた時、ふとオマワリさんの視線がわたしのほうに向いた。
オマワリさんは双眸を細めてわたしのことをじいっと射るように見てくるもんだから、身体が妙に縮こまってしまう。
だって相手はオマワリさんだよ!!?そんな風に見られたら誰だって恐いよ!
怒られる? 捕まっちゃう??
わたしも手錠かけられたりしちゃう…!!?
その場で冷や汗をかきながら、それでも突っ立っていることしかできないわたしに、オマワリさんはゆうらりと近づいてきた。
ヒイッ!そのゆっくりな動作が逆に恐いですううう!!!
どんどん近付く距離にどこか逃げ場を探すが、ここはひたすら河原。隠れ場所も逃げ場所もない。
いろは逃げろ!と切羽詰まったようなヒト科の声が聞こえるけれど、この河原の道を走ったところでオマワリさんとふたり、100メートル走みたくなってしまう。
八方塞がりで「もうダメだ……」と諦めたところだった。
目の前にまで迫ってきたその綺麗なオマワリさんが、わたしの目の前で身を屈めて、同じ視線になったかと思えば。
「いろは」
わたしの名を、呟いた。