恋は思案の外
「は?」――前方で間抜けに口を開けて声を漏らすヒト科がいた。
手錠をかけられてひとりぽつねんと立っているその姿は、本当に間抜けだった。
「いろは、でしょ?」
オマワリさんはもう一度、わたしの存在を確認するように呼ぶ。
「やっと会えた。」
ずっと探してたんだ、と。破顔して嬉しそうな顔を見せるオマワリさんだけれど。
ごめんなさい。
わたし、アナタにまつわる記憶がひとつもないんですけどおおおお!!!?
ヒト科のことを間抜け面と言ったけれど、いまはわたしも負けず劣らず間抜け面だろう。開いた口が塞がらないとはこういうことなんだな、うむ。
「ほら、昔いろはんちの隣に住んでた《ショウヤ》だよ」
「はぁ……」
自身を指差しながらご丁寧に名乗ってくれたけど、そんなオマワリさんの様子をぽけっと見ることしかできない。
ショウヤ?
そんなひと、わたしの家の隣に住んでたっけ?
やばい。全ッ然記憶がない……!
「幼稚園のとき結婚の約束もしたじゃん」
「は?」
昔のことを思い出そうとうーんうーん唸りながら頭を捻るけれど、やっぱりなにひとつ出てこない。
そんな時に聞こえてきた、オマワリさんのあまりに陳腐な言葉に思わずドスの利いた「は?」が漏れてしまった。