恋は思案の外
そんな地を這うような低い声の後、ゴッ……と鈍い音がした。
オマワリさんの背後まで迫っていたヒト科は、彼の頭部に手錠がはまったままの両手を振り下ろしたのだ。
思わず目を丸くして、崩れ落ちてゆくオマワリさんを視界の隅に捉えた。
さっきまでオマワリさんがいた場所にドス黒いオーラを纏って立っていたのは、もちろんヒト科。但し、その両手には手錠がはめられていてすごく情けない。
「いっ、 てえええええ!!!!!!」
「このくそガキ兼ストーカー。」
「ちょ、浬さん!痛すぎ!!」
「いろはに何してくれてんだ。 あ?」
「いやいやいや恐いって!そんな凄まないで!!っていうか浬さんだっていろはに散々――」
「殺(や)る。」
「いやあああああ浬さんやめてえええええええ」
散々口論した挙句、最後は悲鳴に近い叫びをあげながらオマワリさんはヒト科に追いかけられてゆく。
追うヒト科、逃げるオマワリさん。
………ねぇ、これって。立場、逆じゃない?
オマワリさんの面子が丸潰れじゃん。どこが市民の生活の安全と平穏を守る、だ。全国のオマワリさんに凄い勢いで土下座してほしい。
「痛い痛い! いい大人が足蹴りすんなよ!!」
「ストーカーの分際で誰に向かって口利いてんだ?」
「あっ、つい!すんませんその笑顔が逆に恐いです浬さんんんん!!!」
――とりあえず、わたし、
「………帰っていい?」
すっかり日の暮れた肌寒い秋の季節に、冷たくなったハヤテ号が寂しそうにキィっと音を立てた。
酒を呑むならひとりより多数
(でもヒト科とストーカーは勘弁してください。)
* imu