セカンド レディー
「と、とりあえず…手当てしなきゃだよね…。救急箱…は、あっちに置いてあるか」
動揺を隠しきれない瞬は、柱や家具にぶつかりながらも救急箱を取りに行く。
意識を失い、倒れた柚姫の体をそっと抱えると、ソファに体を預ける。
どれだけ深く切りつけたのか。
これが柚姫の抱えてるものに関係しているのか、真意はまだ分からない。
だけどおそらく、こいつにとって触れてはいない部分に触れてまった。
「流牙、優牙さんに連絡した方がいいかもしれない」
"なんで、兄貴に"
なんて、愚問だ。
柚姫は俺たちよりも兄貴に心を許している。
俺たちには話してなくても、兄貴には、伝えていることがあるかもしれない。
スマホの画面を開き、兄貴の連絡先を開くと通話ボタンをタップする。
『んあ"?』
数回のコール後、明らかに不機嫌な声が画面の向こうから聞こえた。
普段俺から電話をかけることは滅多にないし、兄貴からかかってくることも無い。
だから、兄貴からの電話に俺が出ても同じような反応はすると思う。
「柚姫が…」
今、この状況をどう簡潔に説明するべきか。
『柚姫のこと傷つけたら絶対に許さねぇから』
あの日、言われた言葉は脅しなんかじゃねぇ。
一歩言葉を間違えれば、俺たちは完全に終わる。
『柚姫がどうした?』
焦りを含み、かつ、低くなった声のトーン。
喧嘩の時でしか聞かないその声に背筋がゾッとする。
『倉庫だな?動かずそこにいろ』
プツっと音と共に通話が終了する。
疑問形にしていても、その圧からか一切の発言も許されない。
直感的にそう感じた。