セカンド レディー


「柚姫っ」


通話が終了して、10分あまり。


ドンッと音とともに幹部室のドアが乱暴に開けられた。




「柚姫…」


俺たちの存在なんて見えていないかのように、ソファで眠る柚姫の側に歩み寄る。

そして、大切なものを扱うように優しく抱き上げると、部屋に連れていった。



「……おめぇら」


幹部室に戻って来た兄貴は、今までに見たことがないぐらい怒っている。


ゴミを見るような冷たい表情。

殺気混じりの低い声。


グッと下唇を噛み締め、次に言われる言葉を待つ。



「…俺が、悪いんです」



室内に響く、陽向の低い声。



「ただいまー」


タイミングが良いのか悪いか、コンビニから帰ってきた魅斗。


「…ってあれ?優牙さん、こんにちは」


この空気の重さに気づかないあたり、ある意味強いと思う。



「説明しろ」


魅斗の言葉を無視し、ソファにドカッと腰をかけて陽向を睨みつける鋭い眼。

その視線は間違いなく陽向に向けられたものだが、恐ろしい程全身に突き刺さる。



「…​────というわけです」



先程あったことを説明する陽向。



柚姫は何かを抱えいる。


"ただの猫被り"


"ただの遊び人"


それだけですむような簡単な話じゃない。そんなの、あいつと出会った時から察してる。


だけど、


"踏み込むな"


あいつの表情が、そう語っていたから敢えて何も聞かずにいた。


それを陽向は容易な気持ちで踏み込んだ。

< 153 / 297 >

この作品をシェア

pagetop