セカンド レディー
あたしがあたしになる日


「なんで俺の言うことがきけないんだっ!!」




悲劇(それ)は、物心ついた時には、既に始まっていた。




「もうやめて…。これ以上ママを傷つけないで…っ」





男の怒鳴り声。


泣き叫ぶ少女の声。


必死に痛みに耐え抜く女性の姿。



それが、あたしたちの日常だった。



男は毎日、なんの躊躇いもなくママに暴力を振るっていた。




「ねぇ、もう逃げよ…。あんな男、捨てちゃえばいいんだよ」




ある日の晩、ママに訴えた言葉。


あの男のところにいたらダメ。

これ以上ママが傷つく必要なんてないし、傷つけられてる姿なんて見たくなかった。



「ごめんね…。ママね、どうしても彼から離れられないの…。だけど、柚姫のことは絶対に傷つけさせない。これだけは約束するわ」



そういうと、ママは優しくあたしを抱きしめた。


ママは心からあの男を愛している。いや、愛なんて綺麗なものではない。


どちらかと言えば"依存"という方が正しいのかもしれない。





どれだけ傷つけられようが


どれだけ酷い目に合おうが


ママはあの男から逃げなかったのだから。


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