セカンド レディー




「傷、痛い…?」


その日の晩、ママの部屋で傷の手当をする。


「大丈夫よ…。怖い思いさせてごめんね」


ぎゅっと抱きしめる体が震えているのが伝わる。

ママも本当は怖いんだ…。

だけど…。


「ねぇ、もうあんな男から逃げよ…?あたしがずっと、ママのそばにいるから…。ママを1人にしないから…」


「昔はね、あんな人じゃなかったの…。優しくて、素敵で…。ママね、あの人のことを、愛していたの」


ふわっと優しく微笑む、ママの顔。

あたしには見せない、あの男を思って見せる顔。


……分かってる。



ママがどれだけあの男を必要としているかなんて痛いほどわかる。


どれだけ痛めつけられても、あの男に付けられる傷なら受け入れるんでしょ…?


ママはあの男がいないと生きていてないように、あの男もママがいないと生きていけない。



お互いに依存しているからこそ離れられないんだ。



「彼はね、女を弱いと思っているの。だけどわたしは違う。どんな時でも絶対に涙は見せない。それにね、柚姫(あなた)がいれば、ママは強くなれるの。女はいつだって強い…。絶対に守ってみせるから…。あなたは何も心配しなくていいのよ」



もう一度、ぎゅっとあたしの身体を抱きしめるママの腕はさっきと違い震えていなかった。




それはまるで、凛と咲く一輪の花のように。


< 220 / 297 >

この作品をシェア

pagetop