恋しくば
あれって同じ人間がこの世に二人いるみたいな仮説かと思っていた。
なんとなくで言葉を扱ってはいけないな、と常々感じる。
「だから、いくら葛野が葛野を何人見ようとも、俺が認識する葛野は一人だけで、俺が好きだと思う葛野は一人だけだ」
さらりと恥ずかしいことを言ってくるので、思わず周りを見回した。同じくバスを待つ数人は自分たちの暇つぶしに夢中で、誰もこちらに気を向けてはいない。
ように見えるだけかもしれないけれど。
「……俺は上の兄二人に比べたら出来の良い人間じゃなかった」
夜行バスに乗るにしては、周りの人々に比べて辻本の荷物は少ない。