大人になれなかった君とぼく
その時、クロは何か閃いたように、はっとしました。

「そうだ!だったらさ、ぼくの話し相手になってよ」

「話し、相手……?」

「そう、話し相手。天国に着くまでの間、退屈だからさ。だから、一緒に楽しくお話ししようよ!あっ、言っとくけど、ここから先はさっきみたいな暗い話はダメだからね!分かった?」

「えっ!?でも……」

「分かった?」

クロは無理やりにでも「うん」と言わせようと、強く言いました。あまりに強く言うので、翔太くんは思わず後ろに一歩引きます。

「う、うん。分かった」

「よし!じゃあ、今からスタートね。せっかくだから手つないで歩こうよ。その方が楽しいでしょ?」

そう言うと、クロはニコッと笑いながら、小さな黒い右手を差し出しました。

「うん。そうだね」

翔太くんも左手でその手を優しく握りました。その口から少しだけ笑みが零れます。どこからか吹く風が花たちを優しく揺らし、小さな波のような音となって聞こえてきます。二人はゆっくりと、楽しそうに歩きはじめました。

 二人して何を話そうか考え中。頭の中で色んな言葉があっちへ行ったり、こっちへ行ったり。




 例の一本道に到着する頃。クロは立ち止まって言います。

「じゃあさ、生きていたらしたかったことをお互いに言い合おうよ。そういうのを想像するだけでも楽しくなると思うんだ」

「生きていたらしたかったこと?」

「そう。したかったこと、君にもあるでしょ?」

「まぁ、それはあるけど……」

「それじゃあ、決まりだね」

二人はまた天国に向けてゆっくりと長い一本道を歩きはじめました。
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