大人になれなかった君とぼく
また涙が出そうになると、クロがやけに大きな声で「じゃあ、次は君の番」と、悲しい空気を無理やり追い払うように言いました。翔太くんは少し恥ずかしそうにしています。
「絶対笑わない?」
「笑わないよ」
「俺、友達がいなかったんだ。喋るのが苦手でさ。自分から話しかけたりとかできなかった」
「どうして?」
「勇気がなかったんだと思う。嫌われるのが怖かったんだ。要するに、弱虫だったんだよ、俺は。そんな自分が大っ嫌いだった。いつも自分にイライラしてた。友達同士で仲良さそうな人達を見ると、ずっと羨ましく思ってた」
翔太くんは少し下の方を向き、悔しそうに言いました。思い出すのはいじめられたときの嫌な記憶ばかり。思い出したくもない記憶ばかり。学校で楽しかった記憶なんて、翔太くんにはありませんでした。
すぐにまた前を向いて、続けて言います。
「だから、まずは友達をつくりたいな。何でも話せて、一緒にいると楽しくなるような友達をさ」
「友達ができたとして、その子と何がしたい?」
「そうだなぁ~」と言ってから、翔太くんは少しの間考えました。
「一緒にどこかへ遊びに行ったり、学校の帰り道に一緒に寄り道したり、ゲームしたり、くだらないことを言い合って一緒に笑ったりしたいな。修学旅行の夜には枕投げしたり、怖い話とかで盛り上がったりするんだ」
「聞いてるだけで楽しそうだね」
「たまに喧嘩とかもしちゃったりね。でも、またすぐ仲直りするんだ。で、喧嘩する前よりも仲良くなったりしてさ。そして、本当に困ったときには助け合うんだ。それが友達だと思うから」
もし本当にそんな学校生活を送れていたら、どれほど良かっただろう。翔太くんはそう思いました。いじめられない、楽しい学校生活。それは、翔太くんにとって夢のような生活でした。
「大人になったらやりたかったことはなに?」
「大人になったらやりたかったことか……。そんなこと考えたこともなかったな」
そう言って、翔太くんはまた少しの間考えました。頭の中で想像を風船のように膨らませます。考えれば考えるほど、どんどん楽しくなってきました。
「お父さんやお母さんと一緒にお酒を飲みたいな。特に、お父さんと」
「お酒ってなに?」
「お酒っていうのは、大人しか飲めない飲み物のことだよ。子供は飲んじゃダメなんだ。お父さんが"大人の味がする"って言ってた。子供には分かんない味なんだってさ」
「へぇ~。人間の世界にはそんなのもあるんだ。凄いなぁ。他には?」
「好きな人と結婚もしたいな」
翔太くんの顔がほんの少し赤くなりました。頭の中で同じクラスだった一人の女の子の顔が浮かびました。
「学校には好きな人いなかったの?」
クロの質問に思わずどきりとしました。少しだけ胸のどきどきが速くなります。
「も、もちろんいたよ。でも、たまに遠くから見るだけで胸がもうドキドキして、どうにかなりそうだったよ。話しかけるなんて、俺にとっては夢のまた夢さ」
「その人と結婚したかった?」
またどきりとしました。クロは興味津々です。
「そういうことも、正直考えたこと、ある。家に帰ったら好きな人がいるってさ、凄いことだと思うんだ。一緒に御飯食べたり、今日あったこととか話したりしてさ、たまに旅行なんかも行ったりするんだ。子供ができたら、男の子なら一緒にキャッチボールしたりテレビゲームをする。女の子なら公園とかで一緒に遊んだりするのかな」
「君ならいいお父さんになりそうだもんね」
翔太くんは照れくさそうに笑いました。
「そ、そうかな」
「うん!きっとそうだよ。優しいお父さんになる。ぼくが保証するよ」
「猫に保証されてもなぁ」
「あっ!そんなこと言うんだ。ひどいなぁ~」
二人は楽しそうに笑いました。この時、翔太くんもクロも本当に楽しくて仕方ありませんでした。初めて心の底から、自然と笑えたような気がしました。
「絶対笑わない?」
「笑わないよ」
「俺、友達がいなかったんだ。喋るのが苦手でさ。自分から話しかけたりとかできなかった」
「どうして?」
「勇気がなかったんだと思う。嫌われるのが怖かったんだ。要するに、弱虫だったんだよ、俺は。そんな自分が大っ嫌いだった。いつも自分にイライラしてた。友達同士で仲良さそうな人達を見ると、ずっと羨ましく思ってた」
翔太くんは少し下の方を向き、悔しそうに言いました。思い出すのはいじめられたときの嫌な記憶ばかり。思い出したくもない記憶ばかり。学校で楽しかった記憶なんて、翔太くんにはありませんでした。
すぐにまた前を向いて、続けて言います。
「だから、まずは友達をつくりたいな。何でも話せて、一緒にいると楽しくなるような友達をさ」
「友達ができたとして、その子と何がしたい?」
「そうだなぁ~」と言ってから、翔太くんは少しの間考えました。
「一緒にどこかへ遊びに行ったり、学校の帰り道に一緒に寄り道したり、ゲームしたり、くだらないことを言い合って一緒に笑ったりしたいな。修学旅行の夜には枕投げしたり、怖い話とかで盛り上がったりするんだ」
「聞いてるだけで楽しそうだね」
「たまに喧嘩とかもしちゃったりね。でも、またすぐ仲直りするんだ。で、喧嘩する前よりも仲良くなったりしてさ。そして、本当に困ったときには助け合うんだ。それが友達だと思うから」
もし本当にそんな学校生活を送れていたら、どれほど良かっただろう。翔太くんはそう思いました。いじめられない、楽しい学校生活。それは、翔太くんにとって夢のような生活でした。
「大人になったらやりたかったことはなに?」
「大人になったらやりたかったことか……。そんなこと考えたこともなかったな」
そう言って、翔太くんはまた少しの間考えました。頭の中で想像を風船のように膨らませます。考えれば考えるほど、どんどん楽しくなってきました。
「お父さんやお母さんと一緒にお酒を飲みたいな。特に、お父さんと」
「お酒ってなに?」
「お酒っていうのは、大人しか飲めない飲み物のことだよ。子供は飲んじゃダメなんだ。お父さんが"大人の味がする"って言ってた。子供には分かんない味なんだってさ」
「へぇ~。人間の世界にはそんなのもあるんだ。凄いなぁ。他には?」
「好きな人と結婚もしたいな」
翔太くんの顔がほんの少し赤くなりました。頭の中で同じクラスだった一人の女の子の顔が浮かびました。
「学校には好きな人いなかったの?」
クロの質問に思わずどきりとしました。少しだけ胸のどきどきが速くなります。
「も、もちろんいたよ。でも、たまに遠くから見るだけで胸がもうドキドキして、どうにかなりそうだったよ。話しかけるなんて、俺にとっては夢のまた夢さ」
「その人と結婚したかった?」
またどきりとしました。クロは興味津々です。
「そういうことも、正直考えたこと、ある。家に帰ったら好きな人がいるってさ、凄いことだと思うんだ。一緒に御飯食べたり、今日あったこととか話したりしてさ、たまに旅行なんかも行ったりするんだ。子供ができたら、男の子なら一緒にキャッチボールしたりテレビゲームをする。女の子なら公園とかで一緒に遊んだりするのかな」
「君ならいいお父さんになりそうだもんね」
翔太くんは照れくさそうに笑いました。
「そ、そうかな」
「うん!きっとそうだよ。優しいお父さんになる。ぼくが保証するよ」
「猫に保証されてもなぁ」
「あっ!そんなこと言うんだ。ひどいなぁ~」
二人は楽しそうに笑いました。この時、翔太くんもクロも本当に楽しくて仕方ありませんでした。初めて心の底から、自然と笑えたような気がしました。