不本意ながら同棲してます
「あれ?…鍵閉め忘れてたっけ?」

まだ高鳴っている胸を落ち着かせるどころか、
余計に高鳴り出す。

嘘でしょ…?

がちゃりと玄関の扉を開ける自分以外の靴はな
く辺りを見渡すと朝と同じ家具の配置。

大丈夫、物は何も動いていない…

「やっぱり閉め忘れてただけか…」

ほっと胸を撫で下ろして、部屋に入るとそこに
は先程の男の子がいた。

私のベッドに深々と座ってスマホをいじる。

え…ここって私の家だよね…?

呆然と立ち尽くす私に気が付いておかえり、と
声をかけてくる男の子。

平然と挨拶を交わす男の子は、まるでそこにい
ることが当たり前の様に私に向かって微笑む。

「え…なんで、いるんですか…?」

やっと出た声に男の子は楽しそうに笑う。

「そんなに驚く?」

優しそうな笑顔でそう言うと男の子を前に、背
中に寒気が走る。

一歩、二歩後ずさると男の子はベッドから立ち
上がり、ゆっくりとこっちに近づいてくる。

やだ…こないで…

「ねぇ平野さん、平野瀬奈さん」

「なんで…名前…」

なんで知ってるの?

私はこの男の子に名前を教えてないし、この男
の子名前も知らない。

なのに、なんで知ってるの?

「ひみつ」

そのまま私のベッドに戻って横になり、またス
マホをあたりだす。

整った顔でじっと画面を見つめる横顔に不思議
と先程の様な激しい恐怖はうすらいだ。

偶然合った瞳に、私の全てを知られてしまいそ
うでどうしようもない不安感が込み上げる。

「平野さん」

微笑む…と言うよりはニヤリと言うのが正しい
怪しげな笑み。

「なっ…なに」

不安と緊張で声が上擦る。

再びベッドから降りて近づいてくる男の子。
ふわりとした匂いがして頭に手が乗る。

「じゃあね」

扉が閉まる音がして呆然と立ち尽くす。

___私はこの匂いを知っている…
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