元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
男の格好をしているとはいえ、私の心はどうしたって女だ。突然男性に抱きすくめられれば心臓がドキドキしてしまう。

ましてやクレメンス様は私が女だと知っているのだ。どういうつもりなんだろうと、頭が混乱してしまうのも無理はない。

やたらと緊張して身体を強張らせていると、クレメンス様の手が私の腰の辺りで動いているのが分かった。くすぐったくて変な声が出そうになるのを唇を噛みしめてこらえる。

(何なの? これ、どういう状況? 私、どんな顔してればいいの?)

ひたすらに心臓を高鳴らせていると、「できた」と呟いてクレメンス様の身体が離れた。

「へ?」

なんだったのだろうと目をパチクリさせる私に、クレメンス様はにっこりと微笑んで腰のあたりを指さしてみせる。

まだ腕時代のないこの時代、男性は皆、懐中時計を腰のポケットに入れて持ち歩いていた。そして時計に繋いである鎖やリボンをポケットから出してチラ見せするのがスタンダードなのだ。

さらにお洒落上級者になると、その鎖の先にフォブと呼ばれる装飾品をつける。今でいうチャームというか、キーホルダーみたいな感覚かな。
 
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