元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
「帰る客人を数名、見送りに行っていたからじゃないか? 嘘だと思うならロスチャイルド男爵にでも聞けばいい。彼もずっと広間にいたはずだ」
クレメンス様の言葉を聞いてポカンとしているうちに、自分の胸に安堵が広がっていくのが分かった。さっきまでやり場のなかった苛立ちがさっぱり消え去って、顔が勝手に綻んでいく。
「なあんだ、そうだったんですか……」
へらりと脱力した笑顔を浮かべたとき、突然豪快な笑い声と共に隣の席から頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
「わはははっ! よかったなあ、ツグミ! わはははは!」
笑ってごまかそうとしているけれど、そうはいくものか。私はゲンツさんの手を払いのけると、頬を膨らませ怒って見せた。
「よくもテキトーなこと言って落ち込ませてくれましたね? 不潔なのはゲンツさんだけです。これからはクレメンス様のことを同じように語るのはやめてください」
「な、なんだよ。別に俺は間違ったこと言っちゃいねえぞ。昨日はたまたま違っただけで、いつもはどうかは――」
「あーあー聞こえなーい! もうゲンツさんとその話はしたくありません!」
耳を塞いでそっぽを向こうとすると、「お前、師匠に向かってなんて態度だ!」とゲンツさんが私の手を掴んで耳から離そうとしてくる。
そんな風にドタバタとしている私達を見て、クレメンス様は頬杖をついた姿勢で溜息を吐き「ヨーロッパが誇る宰相秘書官とは思えないな」と呆れたように呟いた。