元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
「お食事の用意が整いました。ベッドでお召し上がりになりますか? 起きられるようでしたら、こちらのテーブルに用意させていただきますが」
「あ、テーブルで食べます」
どうやらこの女性はちょっと偉い立場のようだ。他の女性は黒っぽい揃いのドレスを着ているのに、彼女は普通の柄物を着ている。年齢も結構上……五十代くらいに見えるし、お手伝いさんのリーダーみたいなものだろうかと思って眺めていると、彼女がクルリとこちらを向いた。
「ご挨拶が遅れました。私、このお屋敷で旦那様の身の回りのお世話をしておりますマリアと申します。旦那様がお留守の間、あなたのお世話をするよう仕りました。なんなりとお申し付けください」
丁寧な挨拶だけれど、マリアさんの私を見る目はどことなく訝しそうだ。
「ありがとうございます。あ、私は織田つぐみって言います。よろしくお願いします」
うっかり名刺を出そうとキョロキョロしてしまった。バッグには入ってるけれど、出したところで意味はないだろう。
「オダツ……グミ……?」
マリアさんは言いにくそうに私の名前を反芻する。この時代、日本は鎖国の真っただ中でヨーロッパとの交流はまだほとんどなかった頃だ。日本人の名など初めて聞いたのかもしれない。
そういえばと気がついて、私は壁に掛かっていた鏡をチラリと覗き込む。
金縁の豪華な鏡に写っているのは、ショートカットの素朴な純日本人顔。
女性と言えば長い髪が当然のこの時代で、私の髪形はものすごく奇妙に違いない。それにメイクが落ちてしまっているせいで、今の私は華やかさとは程遠い顔をしている。