元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
(すごいな、クレメンス様は。それに比べて私はヨーロッパの中枢部にいる覚悟がまだまだ足りてないのかも……)
自分の未熟さを恥じて、唇を噛みしめた。そのときだった。
会場の入口の方がにわかにざわついた。そのざわつきは段々と会場の中央へと移っていき、そして注目を浴びせる人垣の間を通って姿を現した。
「あ……! レグロン!?」
人々の視線を一身に集めて優雅に足を止めたのは、あの少年だった。
今日は軍服ではなく青いフロックコートをスラリと着こなし、プラチナブロンドの髪を綺麗にセットしている。
舞踏会場という華やかな場所で見る彼は、この場にいる誰より高貴で優美な紳士に見えた。凛々しい表情は涼やかな魅力に溢れ、会場にいる女性だけでなく男性にまで感嘆の溜息を吐かせている。
(なんでレグロンがここに? いや、本宮殿に住んでるんだから公式の舞踏会に出ていても不思議はないけど……でも彼、今までどこの舞踏会でも姿を見せたことはなかったのに)
驚きと、彼のあまりのエレガントさに釘付けになりながら呆然としていると、隣に立つクレメンス様が言った。
「恐ろしいものだな。人々の心を掻き乱す天性の才は父親そっくりだ」
感動と嘲笑、羨望と憎しみが混ざった声というのを、私は初めて聞いた。それだけで首筋に鳥肌が立つ。