元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
「ライヒシュタット公爵閣下、今宵は社交界デビューおめでとうございます。堂々とした出で立ち、大変ご立派でございます。そのお姿を見たら御母堂もさぞかし喜ばれるでしょう」

「ありがとうございます、宰相閣下。けれどこう見えて実はとても緊張しているのですよ。何せ初めて公の場で踊るのですから。僕が足を縺れさせても、どうか笑わないでやってくださいね」

クレメンス様の陰に立ってその光景を見ながら、私は密かに目を瞠っていた。

私のよく知る子供らしいあどけなさ全開の少年の姿はどこにもない。目の前にいるのは帝国重鎮の宰相と対等に渡り合う、立派な王族のひとりだ。

本人は緊張しているなんて言っているけど、品格を保ちながらおどけて笑って見せる辺り、余裕すら窺える。

(レグロン……じゃなかった、ライヒシュタット公、私とお喋りしてたときと全っ然違う。ちゃんと王族してる。これが彼の本当の姿なのかな)

まるで別人のようだと感心して見ていると、ライヒシュタット公の海色の瞳が私を見つめた。

「宰相閣下は異国の秘書官を連れていると、宮廷の噂で聞きました。僕にも紹介していただけませんか?」

ニコリと目を細めながらそう言ったライヒシュタット公に、私はあやうく「へ?」と間抜けな声を出しそうになる。
 
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