元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
(もしかして私……年齢不詳、性別不詳みたいに思われてる?)
日本人は欧米人に比べて歳が幼く見えると聞く。特別童顔という自覚はなかったけれど、彼女達の目から見たら私は妙齢の女性なのか少年なのかよく分からない生き物に写っているのではないだろうか。
しかもこの屋敷に運び込まれたときは服装まで妙ちくりんだったのだ。それは警戒されても仕方がない。
「ええっと、ツグミでいいです。ツグミって呼んでください」
少しでも怪しさを払拭しようと明るい笑顔で言う。マリアさんもそれに笑顔で応えてくれたけれど、口もとは引きつっているように見えた。
食事の準備が整うとマリアさんたちは一礼をして出ていった。テーブルの上には金の縁がついた陶器の食器に料理が並べられている。
ただ、料理自体はあっと驚くほど豪華なものでもない。野菜とマカロニのスープに、甘い揚げパンみたいなもの。チーズ。果物の甘煮……コンポート? それとグラスに汲まれた牛乳だ。
宰相という超絶エリートのお宅なら、もしかしてすごいゴージャスな食事が出されるのかと思ったけれど、案外普通らしい。それとも私の体調を考慮して軽めにしてくれているんだろうか。
味は多少薄味だけれど、普通に美味しい。特にチーズはコクがあって私好みだ。
ただし牛乳はまずかった。というか牛乳か、これ? 二十一世紀の日本で飲みなれている牛乳を想定して口に運んだら、独特な香りが舌に広がって噴き出しそうになってしまった。
最後に果物のコンポートを美味しくいただいてから、私は丁寧に「ごちそうさま」と手を合わせた。