元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
「そ、そんな言い方はないんじゃないでしょうか? ライヒシュタット公は祖父である皇帝陛下のご期待に応えようと勉学を頑張ったと聞きます。彼が聡明なのは皇帝陛下への忠義の賜物ですし、見目がよいのは天性のものです。彼自身がオーストリアに仇なす存在になろうとしてあのような魅力的な人間になった訳じゃありません。悪いのは彼を利用しようと画策している大人です。罪のないライヒシュタット公を貶すのはよくありません」
我ながら警視総監閣下に向かって生意気なことを言ったもんだと呆れる。けれど私は間違っていない。
あの孤独で純真な少年が何をしたと言うのだ。彼はフランスの王座に座ることも革命の旗頭になることも望んでいない。周りの大人が勝手に彼に夢を見て悪だくみしているだけなのに、どうして貶められなくてはいけないのか。
強くライヒシュタット公を庇った私に、セルドニキさんは「ははっ」とからかうように笑った。
「僕は『アレ』と言っただけでライヒシュタット公なんてひと言も言ってないよ? きみは早とちりだねえ」
そうくるだろうなと思っていたけれど、セルドニキさんは白々しくすっとぼける。
「そうですか。それは失礼いたしました」
悪びれない彼に不満を抱きながらも、私は椅子から立ち上がって謝罪した。