元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
必死に頼み込んでみるけれど、パルマ公は退屈そうに視線を窓の外に向けただけで、これといった反応は見せない。まるで嫌なお説教でも聞かされてウンザリしているようなその態度は、さっき熱心にパルマのことを語った姿とは別人だ。

なんとも険悪な雰囲気が流れる中、ようやくパルマ公は溜息をついてから重く口を開いた。

「お父様と“M”に伝えてちょうだい。もう私は国家の犠牲にはなりませんと。今さら私をウィーンに連れ戻そうというのなら、私は今度こそ湖に身を投げますと」

「え……」

思いも寄らない言葉を返されて、私は唖然とした。ますます重苦しくなった空気の中、パルマ公はこちらではなくずっと窓の外を見ている。けれどその瞳は景色ではなく、まるで悪夢を映しているように不安に揺れていた。

「ち、違います。皇帝陛下のご命令でも、宰相閣下のご提案でもありません。僕はライヒシュタット公と、その……友達なので、彼のことを思って僕個人の意思でお願いに伺ったのです」

“M”という呼び方は王宮の中でクレメンス様を嫌っている人達が口にする呼び方だ。ライヒシュタット公もクレメンス様を嫌っているけれど、パルマ公までそんな呼び方をするとは思わなかった。

けれどクレメンス様ではなく私の意思だと説明しても、彼女の反応は変わらない。

「そう。あの子は随分といいお友達を持ったのね。ならばあなたがあの子の側にいてあげればいいわ。もう十四歳ならば母親より友達といる方が楽しい時間を過ごせるでしょう」
 
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