元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
パルマ公の深過ぎる傷は、十年以上経った今でもまるで癒えていない。
ナイペルク夫人の話を聞いているうちに忌まわしい記憶を思い出したのか、パルマ公が再び肩を震わせた。
「……嫌いよ。フランスも、私を悪魔に差し出したお父様とメッテルニヒも。みんな、みんな大嫌い。大嫌いよ」
涙交じりにか細く訴える声が、胸に突き刺さって痛い。
ナイペルク夫人はそんなパルマ公をしっかり胸に抱き、優しく背を撫でながら声をかけた。
「大丈夫ですよ、マリー・ルイーゼ様。私があなたをお守りしてさしあげます。パルマへ帰りましょう。私と一緒に、ずっとずっとパルマで暮らしましょう」
パルマ公を見つめるナイペルク夫人の眼差しは、慈しみと切なさに溢れている。
それを見て私はようやく気づけた。このふたりに主従を超えた絆があることに。
ハッとした表情を浮かべた私に、ナイペルク夫人はこちらを向いて小さく頷いてみせる。
「マリー・ルイーゼ様には伴侶となり支える存在が必要なのです。それが神の教えに背くことだとしても、私は構いません。私は一生このお方に尽くし人生を共にしてまいります」
ナイペルク夫人がきっぱりと言い切ると、彼女の背に回されていたパルマ公の手が震えながらギュッと強く握られたのが見えた。