元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
「……それで、犯人は捕まったんですか?」
「調査中だ。けど問題は奴らが動き出したことじゃない。チビナポが何か考えだしちまったってことだ」
「ライヒシュタット公が?」
「三色旗事件以来、ナポレオンに関する回想録を片っ端から読み始めたらしいぜ。しかもなあ、やっかいなことにゾフィー大公妃が肩入れしてるらしいんだ。最近じゃふたりで出かけるのをやめて、代わりに部屋にこもってフランス語の勉強をしてるって、チビナポの家庭教師からの報告がきてる」
ゲンツさんの話を聞いて、私は唖然とした。
どうしてゾフィー大公妃がそんなことをするのだろう。それじゃあまるで彼女がボナパルティズムの支持者みたいではないか。
ゲンツさんはハーッと大きく溜息を吐き出し、腕を組んで椅子の背凭れに寄り掛かる。
「メッテルニヒの奴が一番危惧してた事態だ。チビナポが親父と同じ道を歩まないように、ウィーンに閉じ込めて徹底的にオーストリア人として育てたのになあ。子供の頃は喋れてたフランス語だって、厳しく禁止して一度は忘れさせたんだぜ。そこまでしても親父とフランスに興味持っちまうんだ。これはもう血筋としか言いようがねえな」
ああ、そうか、と私は数日前に見たライヒシュタット公の姿が頭によみがえった。
彼は思い出したのだ。自分が力強い翼を持った空の王者だということを。