元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
あのときのライヒシュタット公の瞳を思い出して、私は背をゾクリと戦慄かせる。
「ライヒシュタット公は……フランスの王を目指すんでしょうか?」
「それはまだ分からねえよ。夢や憧れを抱く年頃だからな。フランスの王になれなんて言われて、一時的にヒロイズムに酔っちまっただけかもしれねえ。……ただなあ。あの坊やは元々親父に強く憧れてたんだよ。オーストリアに来たばかりの頃はナポレオンの話ばっかりしたがってたし、自分はフランス人だって言ってはばからなかった。もちろんすぐにメッテルニヒの命令で禁止されたけどな。けど、チビナポが軍人に憧れてるのは間違いなく親父の影響だ。口にはしないけど、あいつは親父みたいな軍人になりたいってずっと思ってるんだよ」
ゲンツさんの話を聞きながら、胸が不快に鼓動を早める。
まさか、もしかしたら――考えたくはないけれど、いつの日かライヒシュタット公がフランス王座につき、オーストリアと刃を交える可能性もあるのだろうか。
(でも……電子辞書によるとライヒシュタット公は二十一歳で亡くなるはず。それに歴史には彼がフランスの王になった記録は残されてない)
未来から来た私はこの先のヨーロッパがどうなるかを知っている。けど、この世界は私の元いた世界の過去ではないのだ。色々なことが少しずつズレているこの世界ならば、もしかしたらライヒシュタット公が長生きをし、ナポレオン二世としてオーストリアの敵になる未来もないとは言い切れない。
(……嫌だ、そんな未来。あの子がオーストリアの敵になるなんて……そんな悲しい未来にだけはしたくない)