元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
口もとに手を当て俯いてしまった私に、ゲンツさんが心配そうに励ます声をかける。
「まあ、まだ決まった訳じゃねえよ。チビナポだって十年以上オーストリアで暮らしてるんだ、簡単にフランスの王になりたいなんて言うほど薄情じゃないと思うぜ。第一、そんなことはヨーロッパ中がさせねえよ。なんのためのウィーン体制だと思ってんだ」
「そう……ですよね……」
声が震えないようにこらえながら、私は顔を上げた。
ゲンツさんの言う通りだ。ライヒシュタット公はそんな薄情な少年じゃない。彼がナポレオンに憧れていたとしても、オーストリアには彼を可愛がっている祖父のフランツ一世皇帝陛下も、彼が会いたくて乞い続けている母親のパルマ公もいる。簡単にオーストリアを裏切れるはずがない。
「けど……だったらどうしてゾフィー大公妃はボナパルティズムみたいな真似を?」
それがどうしても不思議で首を傾げるも、ゲンツさんも腕を組んだままうーんと唸って顔をしかめてしまう。
「愛するライヒシュタット公をフランスの英雄にしてあげたい……とか?」
自分の気持ちに素直なゾフィー大公妃ならあり得るかもしれないと思い言ってみたけれど、ゲンツさんは「それはないだろ」とあっさり否定した。
「いくら大公妃が子供っぽくったって、あれでも一応王家の出身だ。そんな浅慮なことをしたらオーストリアとフランスだけでなく大公妃の祖国であるバイエルンもタダじゃ済まないことぐらい分かってるさ」
そうなると彼女が何を考えているのか、ますます分からなくなってしまう。