元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
「……僕、明日ゾフィー大公妃にお会いして伺ってきます」

想像を巡らせるのにも限界があると思い、私は思いきって彼女に直接聞くことを決めた。

「そういやお前は大公妃の“お友達”なんだっけな。なら本人に聞くのが一番いいぜ」

ゲンツさんがそう賛同してくれたとき、店の壁掛け時計が二十二時の鐘を鳴らした。

グラスのワインを飲み干し、ゲンツさんは「そろそろ行くか」と椅子から立ち上がる。

そして同じように立ち上がった私の背を、気合を入れるように叩いてから、「お友達が馬鹿なこと企んでたら、しっかり叱ってやれよ」と発破をかけた。



「ええ、そうなの。私、フランス語が少しできるからフランソワに教えてあげてるのよ」

翌日、さっそく話を聞きに部屋を訪れた私に、ゾフィー大公妃はあっさりとそう答えた。

「ど……どうしてですか?」

悪びれる様子も隠す様子もない彼女に呆気にとられながら尋ねれば、さらにあっけらかんとした答えが返ってきた。

「何故って、この王宮でフランソワにフランス語を教えてくれる人がいないからに決まっているじゃない。ウィーン宮廷の人達って本当に意地悪よね。フランソワがフランス語を覚えたらオーストリアが消滅するとでも思ってるのかしら? 馬鹿々々しい!」

ゾフィー大公妃の言うことはもっともである。ただウィーンの宮廷が恐れているのは、ライヒシュタット公がフランス語を覚えることではなく、覚えたあとどうするのかだ。
 
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