元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
言葉もなく立ち尽くしている私を見て、ゾフィー大公妃がクスクスとあどけない笑顔で笑う。
「そんなに驚かないでちょうだい。私達、初めて会ったときから決めていたのよ。『いつかふたりでここを抜け出そう』って。私に子ができたり、フランソワを乞う人々がいることが分かったりして、私達たくさん考えるようになったの。それで、『私達いつまでも泣いて慰め合ってるだけじゃ駄目ね』って、ふたりで話し合ったのよ」
幼い恋に踊っていた少年と少女は、いつの間にか成長し自分達の役割を見つけ出していた。ふたりはもうただ泣くのをやめて、政治という舞台から鳥籠の鍵を開けようとしている。
「だから……ライヒシュタット公に国際教育を施そうと?」
「そうね。それが彼にフランス語を教え始めた理由の半分」
緊張で背に汗を滑らせる私と対照的に、ゾフィー大公妃は楽しい計画を打ち明ける子供のように唇に弧を描いてこちらを見つめた。
「もう半分の理由はね、フランソワを彼のお父様に会わせてあげるためよ」
無邪気な口調で話された言葉の衝撃に、私は息を呑む。
ライヒシュタット公とナポレオンの再会――この宮廷で……いや、ヨーロッパで一番タブーとされていることを、彼女は平然と口にしたのだ。
「フランソワが彼のお父様にずっと憧れていることは、ツグミだって知っているでしょう? ……もっとも、“M”と意地悪な宮廷官達のせいでフランソワはそれを口に出すことさえ禁じられてしまったけれど。でもね、フランソワはもう大人の言いなりになるしかない子供じゃないわ。彼は彼の意思で生きるべきなの。私、フランソワに約束したわ。いつか一緒にあなたのお父様に会いにいきましょうって。立派な軍人になって、その姿をお父様に見せてさしあげなさいって言ってあげたの。彼、喜んでいたわ」