元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
元の世界では本当に苦労したけれど、おかげで人に仕え陰ながら立ち回る術には大いに長けたと思う。

それに加え私には多少の語学力がある。日本語、ドイツ語の他に、英語とフランス語もビジネス会話程度ならできる。

今まで培ってきたこの能力を活かすには、やはり秘書しかない。そしてどうせ仕えるなら今度はボンクラなボスではなく、有能で信頼できる人がいいと願うのは自然なことだろう。

そう心に決めた私は、屋敷に戻ってきたメッテルニヒさんが部屋を訪ねてくるなり秘書にして欲しいと頼み込んだ。

彼は大きな目をパチパチとしばたたかせたあと、手近な椅子に座ってから頬杖をついた。

「ええと、もう一度話を整理しようか。きみはツグミという名で、二十六歳で、遥か東の日本から来たと。そこでとある会社の秘書をやっていたから、その経験を活かしたいという訳だね」

メッテルニヒさんは私が早口で説明したことを、確認するように復唱した。それに「はい、間違いありません」と答えると、彼は「ふむ」と小さく呟いて自分の顎を撫でさすった。

「残念だが私の宰相という立場は陛下から賜ったものである以上、その権限を陛下の承認なく自由に使うことは出来ない」

「……つまり、皇帝陛下の承認を得ないと宰相秘書にはなれないと」

「呑み込みが早いね、そういうことだ」

眉尻を下げ残念そうに微笑む姿も、やっぱり上品で麗しい。もうこの人がこの国の王子様でいいんじゃないかと馬鹿げたことを思いながらも、私は肩を落とす。
 
< 18 / 321 >

この作品をシェア

pagetop