元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
――ライヒシュタット公を父に会わせてあげたい。

その願いが子供のような純粋で浅慮なものなのか、それとも危険を孕んだ思想ゆえなのか。私は密かに唾を喉に流し込んでから、口を開いた。

「……会って、それからどうされるおつもりです?」

緊迫した様子で問いかけた私に、ゾフィー大公妃は肩を竦めクスッと笑ってみせる。そして長椅子から立ち上がり、私の肩をポンポンと軽く叩いた。

「本当に憶病ね。“M”もあなたも。父親に会ったからって、フランソワがオーストリアの敵になる訳ないじゃない。言ったでしょう、フランソワは私の息子と一緒にこの国を治めていく存在になるって。彼はナポレオンのように革命の旗頭にはならない。正当なハプスブルク系の一員として、ヨーロッパを……いいえ、世界を羽ばたく鷲になるのよ」

――私は、はっきりいってゾフィー大公妃を侮っていた。

聡明な女傑であり打倒メッテルニヒの急先鋒といわれた史実と違って、この世界の彼女はまるっきり幼く良くも悪くも純粋で、恐れる存在などではないと思い込んでいた。

けれど、そうではないと、今はっきりと分かった。

ゾフィー大公妃。彼女は脅威だ。

彼女は純粋ゆえにどこまでも強く賢くなれる。愛するライヒシュタット公のために。

彼女の本質を見抜けなかった私の完敗だと思った。歴史は動き出している。正しく、クレメンス様が追放されウィーン体制が壊滅する未来へと。

何も言えないままでいる私を、ゾフィー大公妃が愛らしい上目遣いで見つめる。そして友達と内緒話をするように「シーッ」と口もとに指を立て、声を潜めて言った。
 
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