元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
「お前の母から贈り物が届いている。……お前の父がエジプト遠征のときに帯刀していたサーベルだそうだ」

「本当ですか!? うわあ、すごい! 感激です、どうもありがとうございます!」

パルマ公から送られてきた贈り物を受け取ったライヒシュタット公は、これ以上ないほど瞳をキラキラと輝かせて破顔している。もしかしたら彼は今、生まれてきて一番幸福な瞬間を過ごしているのではないだろうか。

優美な金装飾のついた鞘に納められたサーベルを手に、うっとりとした表情を浮かべるライヒシュタット公を見て、胸がしめつけられる。彼は本当に、本当に父親のことが大好きで憧れ続けているのだ。

その強くて純粋な思いを今まで抑圧され続けていたことが彼にとってどれほど苦しかったか。父のサーベルを手に喜びで頬を染める彼の姿から伝わってくる。

そしてそれは私だけではないようで、孫を見つめる皇帝陛下の眼差しや家庭教師達の表情、思わず涙ぐんでいる皇后陛下や侍女達の心に思うことがあるのは一目瞭然だった。

国のために仕方がなかったとはいえ、この少年から父親の思い出のすべてを奪い取り王宮に閉じ込め続けてきたことに皆、罪悪感を覚えているのではないだろうか。

(……やっぱり、王宮の人達もライヒシュタット公に悪いことをしたと心の奥では感じているんだ)

国のためとはいえ皆が皆、冷酷なことを子供に強いて平気でいた訳ではないと知れて、僅かに安堵する。
 
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