元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
考えてみれば彼は国家行政官の総括なのだ。一企業とは訳が違う。
考えが甘かっただろうかと眉間に皺を寄せていると、メッテルニヒさんは長い脚を組み替え再び口を開いた。
「けどね、私はきみに興味がある」
「え?」
興味があるなどといわれて、迂闊にも胸が高鳴る。焦って顔を上げると、僅かに口角を上げ楽しそうに微笑む彼の姿が目に映った。
「日本のことは文献などを通して少しは知っているけれど、私としてはまだまだ謎に包まれた興味深い国だ。他国との交流を制限しながらどうやって長年君主制統治を保っているのか。後学のために是非詳しい話を聞きたい」
私個人ではなく日本の統治形態に興味があるだけかと、密かにがっかりする。
「それなら、助けてもらったお礼に幾らでもお話しますよ。私の知る範囲でですけれど」
電子辞書もあるしそれくらいお安い御用だと思いながら答えれば、メッテルニヒさんはおどけるように肩を竦めて見せた。
「もちろんそれも大歓迎だ。けれどできることならば、きみにもオーストリアの政治を学んでもらいたい。その方が互いの国の相違点や改善した方が良い点など見えやすくなってくるからね」
「はあ……」
ようは私にもオーストリアの行政を勉強しろということだろうか。まあ、別にそれも構わないけどと思っていると、メッテルニヒさんは椅子から立ち上がりテーブルのベルを鳴らした。
そして「もうすぐ客人がくる。きみを紹介したいからまずは身支度を整えてもらおうか」とウインクをして見せた。