元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
数十分後。マリアさんとお手伝いさん……もといメッテルニヒ邸の女中さんの手によって、私はとある格好に着替えさせられていた。
今まではシンプルなドレスを貸してもらいそれを着ていたのだけど、今の私はなんと……。
「これって……男の人がする格好ですよね?」
「うん、思った通り。きみにはこちらの方がよく似合う」
鏡に写っているのは、白いズボンに黒いブーツ、白いシャツに豪華な柄の織り込まれたベストとテイルコートを着せられた黒髪の青年……ではなく私だ。
確かにショートカットにこの時代のヒラヒラしたドレスは不釣り合いだったので、今の格好の方がしっくりきている。
けれど男女の格好がはっきりと分かれているこの時代で男性物の服を着るということは、つまり……。
嫌な予感がしてメッテルニヒさんの顔を見上げると、彼は実に紳士然とした笑みを湛えて言った。
「きみは今から私の遠縁の男子ということにする。年齢はそうだな、十八歳でいい。母方が日本人でずっと日本に住んでいたが、父方はジャーマル人ということにしよう。家が没落して領地と家族を失い、遠縁の私を頼ってきた。いいね? だからきみは私を『クレメンス様』、或いは『宰相閣下』と呼びなさい」
予感的中だった。何をどういうつもりで彼がそんな突飛のないことを言い出したのか、理解できず混乱していると、部屋にいつもの男性……侍従長がやって来た。
「旦那様。ゲンツ様がお見えになりました」
「ここに通してくれ」