元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
言葉を途切れさせたゾフィー大公妃の青い瞳がジッと私を見つめる。プロケシュ少尉も、緊張と期待を孕んだ眼差しを私に向けた。
「“M”はきっと反対するわ。彼はフランソワをとても怖がっているもの。ましてやフランスから国王就任の要請が来たあとならば、相当神経質になっているはずよ。彼が断固ノーと言えば、皇帝陛下も首を縦には振らなくなるでしょうね」
それも、容易に考えられることだった。
フランスで七月革命が起こった後ならば、クレメンス様は革命や独立が盛んになるのを危惧して今以上にライヒシュタット公をオーストリアから出さないようにするだろう。
そして、今現在オーストリア行政の舵を取っているのは実質クレメンス様だ。オーストリアは絶対王政を掲げているけれど、フランツ一世皇帝は宰相であるクレメンス様に政治的判断をほぼ委ねている。
ましてやギリシャ国王就任は国際問題だ。国内だけで決めることができた大尉就任のときとは訳が違う。ウィーン体制の中心人物であるクレメンス様が反対すれば、皇帝陛下も承認しないだろうことは明らかだ。
「単刀直入に言うわ、ツグミ。私達はフランスの政変が起こる前に皇帝陛下にギリシャ王就任の約束を取り付ける。国際会議で正式に承認されるまで、あなたには“M”が異を唱えないようにしてもらいたいの」
ついにズバリと協力を仰がれて、私は思わず閉口する。
いつか来るだろうと思っていた選択が目の前にやって来て、私は自分が運命の岐路に立たされていることを痛感した。