元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
「可能性があるなら説得を試みたっていいけれど、無理ならば彼をこの問題から遠ざけて欲しいの。あなたにしかできないことよ、ツグミ。“M”の親戚で秘書官のあなたなら、彼の懐に飛び込める。手段は問わないわ。人手や物が要るのならすべてこちらで準備するから」

「お……っ、お断りです!!」

運命の選択を前に逡巡していた私は、ゾフィー大公妃の言葉でハッと目が覚めた。

彼女は今、暗に促したのだ。手段は問わない――つまり、クレメンス様を罠に嵌め社会的に貶めることも、或いは命を脅かすことも辞さないと。

叫んで椅子から立ち上がった私を、驚いた眼で見ているのはプロケシュ少尉だけだった。

ゾフィー大公妃は「あーあ」と言わんばかりに肩を竦め、ライヒシュタット公はさっきから他人事のように私たちの会話を眺めている。

「僕は……ただの秘書官じゃありません! クレメンス様は僕の恩人で、憧れで、大切な人なんです! ライヒシュタット公を解放すべきだとは思いますが、僕にクレメンス様を裏切るような真似はできません!」

クレメンス様のやり方に賛同できないとしても、彼を裏切ることは嫌だ。ましてや卑怯な手段を用いるくらいならば、死んだ方がマシだ。

強く言い切った私に、プロケシュ少尉がオロオロとしながら「失礼なことを言って申し訳ありません。どうぞ落ち着いてください」と宥める。

ゾフィー大公妃は扇を広げたり閉じたりしながら、「そんなに怒らなくてもいいじゃない」と唇を尖らせた。
 
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