元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
どうやら私に会わせたいと言っていた客人がきたようだ。けれどこんな格好で会っていいのだろうかとオロオロする。すると。
「よお、メッテルニヒ! 来てやったぜ! 俺に頼みってのはなんだ?」
ノックもなしに扉が大きく開け放たれ、短い赤毛を逆立てた男性が白い歯を剥き出しにした笑顔で入ってきた。
陽気そのものといった感じの男性は大股でメッテルニヒさんに近づいてきたかと思うと、小脇に立っていた私を見つけピタリと足を止めた。
そしてさっきとは百八十度違う引き締まった表情を浮かべると、背筋を伸ばし優雅なお辞儀をして見せた。
「フリードリヒ・ゲンツ、参りました。お呼びでしょうか、閣下」
(いやいやいや、もう遅いから! たった今あなたが豪快に馴れ馴れしく部屋に入ってきたの、ばっちり見た後だから!)
なんなんだこの人はと顔を引きつらせていると、メッテルニヒさんは私の背を軽く押しやって言った。
「取り繕わなくていい、ゲンツ。彼は私の遠縁の子だ。かしこまる相手ではない」
メッテルニヒさんの言葉を聞いて、ゲンツと呼ばれた男性の顔がほーっと緩む。
「なんだよ、そういうことは先に言っとけよ! ったく、お前の周りにはいっつもどっかの国のお偉いさんがいやがるからな、一瞬肝が冷えたぜ」
ゲンツさんはガリガリと頭を掻くと手近な椅子にどっかりと座り込む。そして部屋にいた若い女中さんに「茶はいらねえ。この屋敷のセラーで一番高価なワインを持ってきてくれ」とウインクを飛ばしながら言った。